復習用

Quest 1 「プロローグ」

 

天涯の地に密やかに存在する、教義の国グラージャ。

グラージャの祖である双子神は、かつて幻獣の脅威を払い、山々を切り開き、人々を導いた。

光の神ミトラ、闇の神グノシス。双子神はかつて、一つの存在だったと言われている。

唯一絶対の存在であった一つの存在が、なぜ分かたれることになったのか。その理由は現代には伝わっていない。

 

グオオオオォォォォォオオ!!

 

ミトラ『道を空けなさい。こんなところで立ち止まっているわけにはいかないんです!』

 

サシャ『ちょっと、神子さん。ひとりで先走らないでくださいよ!』

 

サシャ『せっかくこの妙な空間で合流できたっていうのに、協力しなきゃ意味が……。』

 

ミトラ『……………………。』

 

サシャ『……まったく。勝手なんだから。怪我したら領主さんが心配するでしょ!保護者の気分ですよ。』

 

(戦闘)

 

ミトラ『はぁ……はぁ……はぁ……。』

 

サシャ『……どうにか、周囲のモンスターは片付けられたみたいですね。』

 

ミトラ『はぁ……はぁ……。』

 

サシャ『神子さん……焦りすぎじゃありません?そんなに私と一緒にいたくないですか。だいぶショックなんですけど?』

 

ミトラ『こんな場所で、ゆっくりしていられないんです。』

 

サシャ『ブランシルヴァの魔王城。ずいぶんと厄介なお城ですね。抜け出すのに骨が折れそう……。』

 

サシャ『でも、そんなに生き急いでたら抜け出せるものも抜け出せませんよ?』

 

ミトラ『……………………。』

 

サシャ『焦っているっていうか……必死に見えます。まるで、わざと自分を傷つけているみたい。そういう生き方は、おすすめしませんよ?』

 

ミトラ『……………………。』

 

サシャ『聞かせてもらえませんか?故郷を離れて旅をしている理由。故郷であるグラージャに、何があるんです?』

 

ミトラ『あなたには……関係ありません。』

 

サシャ『もー。ただの世間話ですってば。付き合ってくれてもいいじゃないですか。見てくださいよ、ほら。』

 

……………………。

 

サシャ『ここを抜けるだけでもいつまでかかるやら。それまでむっつり黙り込むつもりですか?』

 

ミトラ『……………………。』

 

サシャ『時間はたっぷりありますから。女の子同士、おしゃべりしながら行きましょうよ。』

 

ミトラ『……サシャ……さん。』

 

サシャ『はい?』

 

ミトラ『……ありがとうございます。確かに私は、焦っていたようです。……少し、落ち着きました。』

 

ミトラ『あなたはどこか……私の幼なじみに似ています。姿や言動は全然似ていないけど、世話焼きで、優しいところとか。』

 

サシャ『故郷に急ぐのは、その幼なじみのため、ですか?』

 

ミトラ『……いいえ。私が救わなければならないのは、私の双子です。』

 

サシャ『双子……。』

 

ミトラ『救う……いいえ、私は償わなければならない。犯した罪の罰を受けなくてはならない。』

 

ミトラ『私はあの子を……犠牲にしてしまったから。』

 

(そう……これは、私がミトラになるまでの……。あの子がグノシスになるまでの物語……。)

 

 

Quest 2 「シンシャとティアナ」

 

-双翼のレスレクティオ-

 

-第1部-

 

ティアナ『……………………。』

 

……………………。

 

エレオノーラ『ふふ、また転んだのね、ティアナ。こんなに泥だらけになって……。』

 

エレオノーラ『ほら、見せてみなさい?そんなに泣かないの。はい、痛くない、痛くない……。』

 

エレオノーラ『泣かない、泣かない。可愛い笑顔を見せて?あなたには笑っていて欲しいわ……。』

 

ティアナ『……………………。』

 

シンシャ『ティアナ、見ーーーつけた。』

 

ティアナ『……………………。また、見つかっちゃった。』

 

ティアナ『シンシャはどうして、私が隠れている場所がわかるの?』

 

シンシャ『ふふふ、だって双子だもん。闇の教理の指導を黙って欠席したらダメじゃない。』

 

ティアナ『だって今日は、そういう気分じゃなかったんだもん。』

 

ティアナ『おか……大司教様に怒られちゃうかな?』

 

シンシャ『大丈夫。指導は私が代わりに受けたよ。誰も気づかなかったから、こっそり戻れば、きっとバレないよ。』

 

ティアナ『ふふ……ありがとう、シンシャ。』

 

シンシャ『でも……あと半年なんだから、指導を抜け出してばかりじゃダメよ?』

 

シンシャ『半年後には、私たちはミトラとグノシスになるんだから。』

 

ティアナ『……………………。』

 

シンシャ『私がミトラ、あなたがグノシス。名前が変わるのは、なんだか変な気分ね。』

 

ティアナ『名継ぎの儀式……。シンシャは嬉しそうだね。』

 

シンシャ『グラージャに双子が生まれたのは、私たちが数十年ぶりなんだって。』

 

シンシャ『長年望まれていた双子神の後継者。宗教を支えとしているグラージャの人々にとってミトラとグノシスは希望なの。』

 

シンシャ『私はこの国が好きだもの。みんなの役に立てるなら、私は嬉しい。』

 

ティアナ『……………………。』

 

シンシャ『……なんて、教理の指導の受け売りだけど。ティアナも同じ気持ちでしょ?』

 

ティアナ『私は、シンシャほど立派じゃないよ。』

 

ティアナ『私も、この国は大好きだけど……。私が一番大事なのは、大司教様とシンシャだもん。』

 

ティアナ『私は、2人と一緒に、この国でずっと生きていけたら、それでいいの。』

 

シンシャ『ふふふ。ティアナは現実主義だなぁ。』

 

ティアナ『私たち……似てないのかな。』

 

シンシャ『……そうなのかもしれないね。でも、ティアナがどうして指導を抜け出したのか理由くらいはわかるよ?』

 

ティアナ『……………………。』

 

シンシャ『これからはお母様と呼ばずに、大司教様と呼びなさいって、言われたからでしょ?』

 

ティアナ『そんなこと……ないもん。』

 

シンシャ『私たちはやっぱり双子だよ、ティアナ。私も、同じくらい悲しいもん。』

 

シンシャ『子供の頃に引き取ってもらってこれまで育ててくれたお母様を、他人みたいに呼ばなきゃいけないなんて。』

 

シンシャ『でも……それだけミトラとグノシスの存在は、この国にとって重いんだよ。』

 

シンシャ『私たちはこの国の大司教様の娘。双子神の後継者なんだもん。』

 

ティアナ『……………………。』

 

シンシャ『本当は、そのこともわかってるんだよね。それでも頑張らないといけないから、辛いんだよね?』

 

ティアナ『……………………。』

 

ティアナ『…………シンシャと双子なの、やだ。なんでも見透かされちゃうんだもん。』

 

シンシャ『しょうがないよ。私の気持ちだって見透かされちゃうもん。』

 

シンシャ『帰ろう、ティアナ。モンスターが出るから気をつけないと。』

 

ティアナ『…………うん。』

 

(戦闘)

 

カナン『シンシャ様、ティアナ様!!お怪我はありませんか!?』

 

ティアナ『カナン、助けてくれてありがとう。』

 

カナン『ご無事で安心しました、シンシャ様!』

 

ティアナ『私はティアナよ、カナン。』

 

カナン『む……失礼しました。』

 

カナン『しかし、このような危険な場所に護衛も付けずに2人で足を運ぶなど、許されませんよ、ティアナ様?』

 

シンシャ『私はシンシャだってば、カナン。』

 

カナン『ぐむ……失礼しました。』

 

シンシャ『(ヒソヒソ)ね、入れ替わったことも気づいてないよ?』

 

ティアナ『(ヒソヒソ)カナンはしっかりしているようで抜けているから、基準にならないよ?』

 

シンシャ『カナン。この森は子供の頃からの遊び場だから危険じゃないよ。』

 

カナン『昨今はモンスター出現の報告が多く、警戒が必要なのです。幻獣の出現も民の間で噂されています。』

 

カナン『お2人に何かあったら、グラージャの民に不安が広がります。軽率な行動は自重してください。』

 

カナン『名継ぎの儀式が終わるまでですので、何かある時は私に仰ってください。』

 

ティアナ『でも……名継ぎの儀式が終わったら、私たちに自由なんて無いじゃない。』

 

シンシャ『ティアナ……。』

 

カナン『ティアナ様……私は光の教団の司教です。立場上、あなたたちを偽りの優しさでごまかしたりはしません。』

 

カナン『シンシャ様、ティアナ様。あなたたちはこの国の希望なのです。その使命の前に個人の自由は存在しません。』

 

ティアナ『……………………。』

 

シンシャ『……そうね。ごめんなさい、カナン。』

 

カナン『……さあ、帰りましょう。シンシャ様、ティアナ様。エレオノーラ様がお待ちです。』

 

『いつも一緒だったね。生まれた時から一緒だったんだもん。離れることなんて、考えられなかった。』

『あなたも同じ気持ちなのはわかったよ。あの時握った私の手を、あなたも強く、握り返してきたから……。』

 

 

Quest 3 「教義の国の大司教

 

ジャンナ『私が非難しているのは、神子殿が勝手きままに動き回れる光の教団の警備の甘さだ、光の司教殿。』

 

カナン『闇の司教殿。だから、そのことはすでにお2人に注意したと言っているだろう。』

 

カナン『あなたは神子殿を教団内に閉じ込めておけばいいとでも言うのか。』

 

ジャンナ『ぜひともそうした方がいいだろうな。モンスターや幻獣だけではない。危険なのは人間も同じなのだからな。』

 

カナン『神子殿が危険な人物の手にかかると?あなた達闇の教団が秘密裏に行っている暗殺者養成の施設の出身者の手に?』

 

ジャンナ『……………………。』

 

カナン『闇の教団が暗殺者を育て、国外の争いごとに介入している件についてはまだ解決を見ていないぞ。』

 

カナン『ブライトハート家の件もだ。光の教団の勢力を削り、何を企む?』

 

ジャンナ『だから、その件に関しては闇の教団の本部は関わっていないと何度も申し開きをしたはずだ。話を逸らさないでもらおう、光の司教殿。』

 

シンシャ『ジャンナとカナン、またやってる……。』

 

シンシャ『あの2人は、昔恋人同士だって聞いたけど……あれって本当なのかな。』

 

ティアナ『光の教団と闇の教団の対立は、ずっと続いていることだから……。』

 

ティアナ『ふたりが言い争うようになったのは、カナンが光の教団の、ジャンナが闇の教団の、それぞれの司教になってからだと思う……。』

 

シンシャ『ティアナ……。』

 

カナン『シンシャ様、ティアナ様。私は闇の司教殿と話がありますので、エレオノーラ様の元へ。』

 

シンシャ『ありがとう、カナン。行こう、ティアナ。』

 

ティアナ『うん。』

 

ジャンナ『ティアナ様、あなたは闇の神子なのです。名継ぎの儀式が終わるまでは……。』

 

カナン『よせ、ジャンナ。神子様にこれ以上、余計な心労を与えるな。』

 

ジャンナ『カナン。光の教団の甘さは、あなたの甘さなのよ?』

 

ジャンナ『大司教様にきつく叱ってもらわなくては。神子様が護衛も付けず森に出かけたことについては。』

 

ティアナ『……………………。』

 

……………………。

 

シンシャ『イーリス、大司教様のところに行かせて。』

 

イーリス『エレオノーラ様はお休み中だ。今日は諦めろ。えーと……お前はどっちだ?』

 

シンシャ『シンシャよ。』

 

イーリス『いい加減、見分けがつくように印でもつけろ。とにかく今日はお引き取り願おう。』

 

ティアナ『お願い、邪魔をしないで、イーリス。』

 

イーリス『…………邪魔だと?私はエレオノーラ様の護衛役として職務を全うしているだけだ。』

 

イーリス『どかしたいのなら、どけ、と命令したらいい。光と闇の神子様の権限でな。』

 

シンシャ『意地悪言わないで、イーリス。子供の頃から知っているあなたに、命令なんて、できるわけないじゃない。』

 

イーリス『毎度毎度そうやって……。気を使っているつもりのその態度がカンに触るんだ!帰れと言ったら帰れ!』

 

(戦闘)

 

エレオノーラ『イーリス。』

 

イーリス『だ、大司教様……!!』

 

エレオノーラ『私なら大丈夫です。2人を通してあげて。』

 

イーリス『でも……エレオノーラ様。』

 

エレオノーラ『イーリス。』

 

イーリス『は、はい! 失礼しました!』

 

イーリス『……どうぞ、お通りくださいませ。光の神子様、闇の神子様。』

 

シンシャ『ありがとう、イーリス。またね。』

 

イーリス『……ふん。』

 

……………………。

 

シンシャ『ただいま戻りました、大司教様。』

 

エレオノーラ『お帰りなさい、2人とも。さて……。』

 

エレオノーラ『ティアナ。私に何か言うことはない?』

 

ティアナ『えっ……と。特に……ありません、大司教様。』

 

エレオノーラ『本当に? それじゃあ、どうしてシンシャがあなたの代わりに指導を受けていたのか、理由を教えて?』

 

ティアナ『えっ……と、あの、その……。』

 

シンシャ『ど、どうしてわかったの……?誰も気づいてなかったのに……。』

 

エレオノーラ『私の目はごまかせません。さあ、ティアナ。』

 

ティアナ『あ、あう……ご、ごめんなさい。大司教様。』

 

シンシャ『ち……違うんです、大司教様。ティアナの代わりは私が勝手に……!』

 

エレオノーラ『反省している? ティアナ。』

 

ティアナ『は……はい。』

 

シンシャ『……………………(ハラハラ)。』

 

エレオノーラ『ティアナ。私の目を見なさい。私が何に対して怒っているかわかりますか?』

 

ティアナ『闇の教理の指導を……抜け出したことに。』

 

エレオノーラ『違います。双子であるシンシャに入れ替わるなんて……。』

 

エレオノーラ『そんなにワクワクすること、私に黙ってしたことに対してです。』

 

ティアナ『大司教様……。』

 

エレオノーラ『気づいたのは私だけよ。これは3人の秘密ね?またのけ者にしたら、今度こそカナンとジャンナにバラしちゃうからね?』

 

ティアナ『……………………っ。』

 

エレオノーラ『いらっしゃい、ティアナ。』

 

ぎゅっ!

 

エレオノーラ『シンシャも、いらっしゃい。』

 

シンシャ『でも、その……。』

 

エレオノーラ『本当はいけないんだけど……。3人でいる時くらい、あなた達の母親でいたいのよ。ね、シンシャ。』

 

シンシャ『……………………っ。』

 

ぎゅっ

 

エレオノーラ『それじゃ、ティアナ。森でどんなことをしていたか、教えてくれる?』

 

ティアナ『はい、お母様! 森の外れの大木が、たくさん木の実を付けていました。』

 

ティアナ『甘酸っぱい香りが周りに広がっていて、とても幸せな気持ちになれました。』

 

エレオノーラ『そう。そこでお昼寝したら、きっと気持ちがいいでしょうね。』

 

ティアナ『はい! それと、子供の頃にあの森で見た白い鳥をまた見つけました。もしかしたら、あの時の鳥かも。』

 

エレオノーラ『ふふふ。そうだったら素敵ね。シンシャ、あなたは何を見たの?』

 

シンシャ『ええと……森の手前の農家の人たちが忙しそうにしていました。もうすぐ収穫の時期みたい。』

 

エレオノーラ『そうね。収穫が終わったら、復活祭が始まるわね。忙しくなるわ。』

 

シンシャ『復活祭……レスレクティオ。』

 

エレオノーラ『そう。光のミトラと闇のグノシスがグラージャの国の収穫を知り、お互いの存在を確認しあう祈祷祭。』

 

エレオノーラ『名継ぎの儀式が済んだら、来年からはあなた達がミトラとグノシスとして、復活祭を司るのよ。』

 

シンシャ『はい。……あの、お母様。わからないことがあるんです。』

 

エレオノーラ『なあに、シンシャ?』

 

シンシャ『ミトラとグノシスがお互いの存在を確かめ合うだけの儀式なのに、どうして復活祭、なんて呼ぶのですか?』

 

ティアナ『私も不思議に思ってた。』

 

エレオノーラ『……そうね。今となっては、収穫を祝うことが主な目的になっているけど、かつては意味合いが違っていたの。』

 

エレオノーラ『レスレクティオは、光と闇の融合を願う儀式だったと言われているわ。』

 

ティアナ『光と闇の……融合。』

 

エレオノーラ『光の神ミトラと、闇の神グノシス。この2神はかつて、1つの存在だったと言われているわ。』

 

エレオノーラ『今のあなた達のように、お互いがお互いを補い合う、一心同体の存在。』

 

エレオノーラ『ミトラとグノシスは、また再び、1つの存在へと戻ることを願っているのかもしれないわね。』

 

シンシャ『……………………。』

 

ティアナ『……………………。』

 

 

Quest 4 「復活祭の夜」

 

シンシャ『……人の子よ。夜の闇を恐れるなかれ。夜に、闇に目をこらしなさい。』

 

シンシャ『あなたを包む温もりがあるでしょう。闇は愛すべき存在であり、並び歩むべき存在なのです。』

 

シンシャ『人の子よ、罪を恐れることなかれ。あなたの犯した罪で最も悪なことは、罪を隠し逃れようとする心なのです。』

 

エレオノーラ『……………………。』

 

シンシャ『人の子よ、完全なるものに憧れることなかれ。片翼で飛べぬことを知り、足りないものを探すことを、生涯の使命としなさい。』

 

シンシャ『人の子よ……。大司教様。』

 

エレオノーラ『光の教典はもう、完全に諳んじることができるのね、シンシャ。』

 

シンシャ『どうでしょう。言葉として覚えたとしても、心から理解しなくては本当に知ったとは言えないと思います。』

 

エレオノーラ『あなたは真面目ね、シンシャ。勤勉で慎重、真面目なのは、光のミトラにふさわしい素質よ。』

 

シンシャ『真面目というか……臆病なだけです。ミトラの名を継ぐことは、とても重圧を感じますから。』

 

シンシャ『ティアナは、責任は感じているんだろうけど平然としているから、すごいなぁって思います。』

 

エレオノーラ『あの子の大らかな性格はグノシスの素質かしら?少し危なっかしい所があるけど。』

 

シンシャ『半年後には、ティアナと離れ離れになっちゃうなんて……まだ実感が沸きません。』

 

エレオノーラ『離れ離れ…そうね。ミトラとグノシスの名には力がある。』

 

エレオノーラ『名継ぎの儀式が終われば、あなた達の心と体は、ミトラとグノシスに近づいていく。』

 

エレオノーラ『あなたの髪は明るくなり、ティアナの髪は黒くなる。誰でもあなた達の区別が付くようになるわね。』

 

シンシャ『そうなったら……今はこんなに近く感じるティアナの心も、わからなくなるんでしょうか。』

 

シンシャ『2つに別れてしまった、ミトラとグノシスのように…』

 

シンシャ『私たちも、カナンとジャンナのようにお互いを敵視して、憎むようになるんでしょうか。』

 

エレオノーラ『……いいえ、シンシャ。』

 

エレオノーラ『グラージャの祖、ミトラとグノシスは双子神。同じ志を胸に、千年この国を見守ってきた気持ちは決して離れはしないわ。』

 

エレオノーラ『あなた達の心が強く繋がっていれば……。きっと大丈夫。心配しないで。それとね……。』

 

シンシャ『……………………?』

 

エレオノーラ『私があなた達を愛している気持ちも、ずっと一緒よ。たとえあなた達の姿が変わったとしても。』

 

エレオノーラ『それも……忘れないでね?』

 

シンシャ『はい………………お母様。』

 

シンシャ『あっ。ご、ごめんなさい、大司教様。』

 

エレオノーラ『ふふふ、やっぱりあなた達は双子ね。』

 

エレオノーラ『ティアナに同じ話をしたら、あの子も今のあなたと同じ間違いをしたわ。』

 

シンシャ『ティアナも……?ふふ、そうなんだ。』

 

エレオノーラ『あなた達が離れ離れになるところなんて、想像がつかないわね。』

 

シンシャ『あ、でも……お母様。』

 

エレオノーラ『どうしたの、シンシャ?』

 

シンシャ『先にティアナに言うのは……ずるいと思います。』

 

エレオノーラ『はいはい、すねないの。』

 

エレオノーラ『ティアナをお願いね、シンシャ。あの子は少し、危なっかしいところがあるから。』

 

シンシャ『……………………。』

 

エレオノーラ『こっちは、あなただけに言っておくわね?』

 

シンシャ『……………………はい! えへへ。』

 

エレオノーラ『復活祭が始まるわ。ティアナと一緒に、行ってらっしゃい。』

 

シンシャ『はい!』

 

(戦闘)

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

ジャンナ『おぞましい……。数々の怨念が塊になったような幻獣だ。』

 

ジャンナ『これが……このようなものが我々が神格化していたものなのか。』

 

ノア『……正確には、その一部、だがな。仕上がりは上々、というところか。』

 

ノア『この幻獣の力は燭台によって解放される。完全なる姿まで、あと一歩だ。後は私が伝えた方法で……わかるな。』

 

ジャンナ『……………………。』

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

ノア『もうひとつ、必要なものがあるのだ……。グラージャの神の名を継ぐ素質を持つ……神子が。』

 

ジャンナ『……………………。』

 

 

……………………。

 

 

イーリス『カナン様は儀式の警護に出ているので、今日のシンシャとティアナの護衛は私がやることになった。』

 

シンシャ『3人で復活祭に来るのは久しぶりだね。イーリスも一緒に回ろうよ。』

 

イーリス『私は遊びに来ているわけじゃない。神子様がたは、どうかお楽しみください。』

 

ティアナ『近くにいるのが嫌なら護衛なんて引き受けなければいいのに……。』

 

イーリス『ふん……。』

 

シンシャ『昔は3人でよく遊んだのに、どうしてイーリスは私たちに冷たくするの?』

 

イーリス『お前たちは、私とは違うんだ。大司教様に見出されて、光と闇の神子になって……。』

 

イーリス『いつまでも、何も知らない子供みたいに遊んでいられる訳じゃない。』

 

ティアナ『シンシャ。イーリスは私たちと遊べなくなって寂しいんだって。カナンが教えてくれた。』

 

イーリス『なっ……!!そ、そんなわけあるか、バカ!子供じゃあるまいし。』

 

イーリス『近くには控えているから、さっさと遊んでこい、バカバカ!』

 

シンシャ『あ、待って、イーリス……。』

 

イーリス(神子の存在は……この国では尊い。)

 

イーリス(いくらお前たちが、昔と同じように接しようと私はもう……お前たちとは対等じゃない。あの頃とは……違うんだ。)

 

ジャンナ『イーリス。お前に頼みたいことがある。』

 

イーリス『ジャンナ様……?』

 

 

……………………。

 

 

シンシャ『見て、ティアナ。』

 

……………………。

 

シンシャ『ランタンが飛んでいるね。とても幻想的……。私、毎年これを見るのが好きなの。』

 

シンシャ『グラージャのみんなは、ランタンにどんな願いを込めて空に飛ばしたんだろうね。』

 

ティアナ『復活祭では、グラージャに住む人がみんな、願いを込めてランタンを空に飛ばす。でも……。』

 

ティアナ『ミトラとグノシスの融合とランタンって、全然関係ないよね、シンシャ。』

 

シンシャ『もう……ティアナは現実的なんだから。』

 

シンシャ『グラージャの祖である双子神……か。どうして2神は離れ離れになっちゃったんだろうね?』

 

ティアナ『ケンカした……とか?』

 

シンシャ『ケンカして、仲直りできないでいるのかな?ふふふ、千年も?』

 

ティアナ『ふふ、意地っ張りだね。シンシャみたい。』

 

シンシャ『それはお互い様でしょー。ふてくされたティアナは本当に手に負えないんだから。』

 

シンシャ『……ティアナと大喧嘩したことがあったよね。どのくらい口を利かなかったんだっけ?』

 

ティアナ『……3日。』

 

シンシャ『だね。私は我慢できなくなっちゃった。心が重くて、ズキズキして……。もう謝っちゃおうって決心して部屋を出たら……。』

 

ティアナ『……うん。私も部屋を出るところで、2人で勢い余って、鼻をぶつけた。』

 

シンシャ『ふふふふ……。』

 

シンシャ『きっと大丈夫だよ、ティアナ。たとえ、ミトラとグノシスになっても。たとえ私たちがケンカしたとしても……。』

 

シンシャ『私とあなたは一緒だよ。あなたがどこに隠れても、私が見つけるよ。』

 

ティアナ『うん………………私も。』

 

 

『あの夜見たランタンの灯りに、あなたは何を願った?』

『夜空一面に広がる灯りを今でも忘れない。この先もずっと……。あの時ランタンに込めた、私の願いも。』

 

 

 

Quest 5 「邪王の祭壇」

 

ティアナ『ここが……邪王の祭壇。』

 

イーリス『ああ、かつてミトラとグノシスが作った儀礼場といわれている洞窟だ。この最下層に祭壇がある。』

 

ティアナ『名継ぎの儀式が終わるまで、ここは封印されているんじゃないの?』

 

イーリス『そのはずだが……。私は闇の司教様に言われてお前を連れてきただけだ。さあ、行くぞ。ティアナ。』

 

ティアナ『ジャンナが? どうして私だけ……?』

 

 

…………。

 

 

カナン『他国に干渉しないというのがグラージャのあるべき姿だ。異教の国々と関わる事を双子神は望んでいない。』

 

ジャンナ『そのようなことは聖典に記されていない。信仰を忘れなければ、双子神は必ず私たちを守ってくださる。』

 

シンシャ(カナン……またジャンナと言い争ってる。光の教団と闇の教団の意見の対立は、昔からだって大司教様は言ってたけど……。)

 

シンシャ(私とティアナが神の名を継いでも、この関係は変わらないのかな……。)

 

ジャンナ『我らの魔力の知識と力があれば、他国と渡り合うことも可能なのだ。』

 

カナン『だから他国と結び、隣国を攻めよ、と?他者からの略奪を双子神が守ってくれると思っているのか?』

 

カナン『神の名を冠して戦を行うなど、ミトラとグノシスを最も冒涜する行為だ!』

 

ジャンナ『近年ではモンスターや幻獣の出現も多発している。ミトラとグノシスに寄り添うだけでは、この国は緩やかに滅びに向かうだけだ。』

 

ジャンナ『あなたは、モンスターや幻獣に脅かされ細々と生きながらえていく今の姿が、この国のあるべき姿だというのか!?』

 

カナン『そうは言っていない。他国との同調は軋轢を生むことにつながる。グラージャは他国との協調を……。』

 

カナン『はあ……。いつから私と君の意見はこんなにも食い違うようになってしまったのだろうな……。』

 

ジャンナ『……いつまでも恋人面するのはやめてくれない?』

 

ジャンナ『光の教団は内に目を向けるあまり、世の流れが見えていないのよ。私は西の脅威に備えているだけ。』

 

カナン『西……?』

 

ジャンナ『もはやこの世は、幻獣に備えるだけでは生き残れない世界になってしまったのよ。』

 

シンシャ『あ、あの……カナン。』

 

カナン『これは、神子様。ええと……。』

 

シンシャ『シンシャよ。ねえ、カナン。ティアナの姿が見えないのだけど、どこに行ったか知らない?』

 

カナン『いいえ、私は存じませんが……。』

 

シンシャ『ジャンナ、あなたは?』

 

ジャンナ『……イーリスと共に北へ向かったようですよ。』

 

シンシャ『北……?』

 

 

ワアアアアアアアアアア!!

 

 

カナン『なんの騒ぎだ!』

 

シンシャ(なに……この気配? 何か……不気味な何かが、地の底から這い上がってくるような……!)

 

(戦闘)

 

シンシャ『消えた。なんだったの、あれは……。』

 

カナン『倒した……のか?』

 

シンシャ(倒していない。まだ気配を感じる。他の人にはわからないみたい。どうして私には、あれの気配がわかるの……?)

 

シンシャ『まだ、あれの気配を感じる。北に……向かっている。』

 

カナン『北……まさか、邪王の祭壇?』

 

カナン『こうしてはいられない、兵を集めろ!魔力を持つ者を中心に魔導兵を率いる!』

 

カナン『シンシャ様は部屋へお戻りください。』

 

シンシャ『ダメよ、カナン……嫌な予感がするの。私も行く!』

 

カナン『いけません、シンシャ様。グラージャの兵が束になっても敵わない敵。あれは……幻獣です。』

 

カナン『あのような危険な敵に近づいてはなりません。あなたにもしものことがあれば、光の教団は……。』

 

シンシャ『光も闇も関係ありません! ティアナが……北からはティアナの気配も感じるの!!』

 

カナン『あっ! シンシャ様!闇の司教殿、シンシャ様をお止めしろ!』

 

カナン『ジャンナ……?』

 

 

Quest 6 「闇の神子の盾」

 

ティアナ『イーリス、どこまで行くの?もう戻らないと……。』

 

イーリス『おかしいな。闇の司教様にお前を祭壇まで連れてこいと言われたんだが……。』

 

ティアナ『どこにもいないよ……え?』

 

イーリス『どうした、ティアナ?』

 

ティアナ『やだ……なに、この気配。暗くて、重くて……気持ち悪い。』

 

ティアナ『近づいてくる……なんなの、これ……。』

 

イーリス『何を言ってるんだ、おま……。』

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

イーリス『きゃっ……!な、なんだ、この化け物は!?』

 

ティアナ『やだ……来ないで!』

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

イーリス『ティアナを狙っている……?』

 

ティアナ『来ないで、来ないでよ……。』

 

イーリス『ティアナに手を出すな!!』

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

ティアナ『イーリス……!』

 

イーリス『なんだ、こんな化け物……。ティアナに……私の友達に近づくな!!』

 

(戦闘)

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

イーリス『うっぐ……!!』

 

ティアナ『イーリス!!』

 

イーリス『いいから……私の背に隠れてろ。まったく、お前たち双子は……いつまでも世話が焼ける。』

 

イーリス『私が……守らないと、いけないんだ。私が……。』

 

『オオオオオオオオオ……!』

 

ティアナ『イーリス……!』

 

イーリス『このおおおおおお!』

 

『オオオオオオオオオ……!』

 

イーリス『うわああああああああ!』

 

ティアナ『イーリス!! いやああああああ!!』

 

イーリス『ああああああああ!!』

 

イーリス(なに、これは……!大きな波のような……憎しみ?)

 

イーリス(飲み込まれる……!?私の心が……私の、全部が……!)

 

イーリス(怖い……怖いよ!自分が無くなっていくのが、わかる。私の、心が、消えて……。)

 

イーリス『え…………?』

 

エレオノーラ『もう大丈夫よ、イーリス。ありがとう……ティアナを守ってくれて。』

 

 

Quest 7 「親子の絆」

 

シンシャ『ティアナ! イーリス!!』

 

カナン『シンシャ様!お下がりください、危険です!』

 

カナン『こ、これは……!!』

 

イーリス『……………………。』

 

エレオノーラ『カナン、イーリスを任せます。怪我はありませんが、あの幻獣の影響が心配です。』

 

カナン『エレオノーラ様もお下がりください!ここは我らにお任せを!』

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

エレオノーラ『生物ではない……死者の霊魂の塊?それだけではない。魂の中心にある虚空の空間、あれはまさか……。』

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

エレオノーラ『この者は何かを求めている。……シンシャとティアナを?』

 

カナン『魔導兵、隊列を組め!あの幻獣を食い止めて……。』

 

『オオオオオオオオオ……!!』

 

『がっ……は!』

 

カナン『ぐうっ……。体が、動かない……これが幻獣なのか。』

 

エレオノーラ『シンシャとティアナに反応してさらに力が増した……。』

 

エレオノーラ『聞きなさい、あなた達。言い伝えが正しければ、あれは……古代の意志。』

 

『古代の……意志?』

 

エレオノーラ『あれを神子に近づける訳にはいきません。カナン、私の言うことをよく聞きなさい。』

 

カナン『は、はい!』

 

エレオノーラ『私があの幻獣の動きを止めます。その隙に、あなたが討ち取るのです。』

 

カナン『大司教様が幻獣と対峙するなど……!』

 

エレオノーラ『あれは神子を飲み込もうとしています。グラージャの大司教として、神子を渡すわけにはいきません。』

 

エレオノーラ『この私の……命に代えても。』

 

カナン『大司教様、何を!?』

 

『オオオオオオオオオ……!!』

 

『お母様!!!!』

 

エレオノーラ『カナン……私が内からこの幻獣の力を抑えます。あなたは外から、この闇の魂を浄化しなさい。』

 

カナン『大司教様、で、できません!それでは大司教様も……。』

 

エレオノーラ『カナン。己の立場を忘れましたか。あなたの力はなんのためにあるのです!』

 

カナン『…………!!』

 

『やめて、カナン!!お母様があの幻獣の中に……!』

 

『いやあああああ、お母様!!』

 

エレオノーラ『2人を……頼みます、カナン。』

 

カナン『大司教様……。』

 

『オオオオオオオオオ……!!』

 

エレオノーラ『古代の意志よ。その怨念、霊魂がどれだけの力を持ち得ようとも……。』

 

『オオオオオオオオオ……!!』

 

エレオノーラ『子を守る親の力に、及ばないことを知りなさい!!』

 

エレオノーラ『さあ…………カナン。』

 

カナン『大司教様……!』

 

カナン『私は……双子神の神子を守る司教だ!その名において!!神子に仇なす者を討ち払わん!!』

 

(戦闘)

 

『オオオオオオオオオ……。』

 

ジャンナ『レギオタズマが霧散した……。くっ……!!』

 

ジャンナ『大司教様……こんなバカな。私は……こんなつもりでは……!』

 

ジャンナ『結末を変えられはしないのだ。レギオタズマはまた復活する。』

 

ジャンナ『闇の神子の体を喰らい尽くすまであの幻獣は止まらないのだ。我が国のため……この儀式は必要なのだ!』

 

 

……………………。

 

 

エレオノーラ『……………………。』

 

カナン『大司教様……申し訳ありませんでした。』

 

エレオノーラ『カナン……辛い役目を……させましたね。……ありがとう。シンシャとティアナを……守ってくれて。』

 

ティアナ『お母様!! お母様ああ!こんなの……こんなのやだあ!』

 

エレオノーラ『……ティアナ……シンシャと……仲良くね。』

 

エレオノーラ『あなたは……私とシンシャを……とても、大切に……思ってくれている。』

 

エレオノーラ『その、気持ちを……。この国……の、全てに……注いであげてね?』

 

ティアナ『お母……様……。』

 

エレオノーラ『シンシャ……ティアナを……守ってあげてね?』

 

シンシャ『お母様……!!』

 

ティアナ『お母様。お母様あ……。』

 

エレオノーラ『グラージャの……大……司教として……。母親……として……私は……あなた達に……何も、してあげられなかった。』

 

エレオノーラ『それでも……こんな、ダメな私を……。母と……呼んでくれて…………。ありがとう。』

 

ティアナ『……う、ひっく。お母様あ……。』

 

シンシャ『お母様……。』

 

エレオノーラ『ティアナ……シンシャも。そんなに……泣か、ないの。ほら……痛くない……痛くない……。』

 

エレオノーラ『可愛い……笑顔を……見せて?あなた……達……には……笑顔が……。』

 

エレオノーラ『……………………。』

 

ティアナ『やだ……やだよ、お母様。』

 

ティアナ『目を開けて……こんなの、いやだ。やだよおおおお……!』

 

ティアナ『お母様。お母様あ……。』

 

シンシャ『ティアナ……。』

 

(エレオノーラ『ティアナをお願いね、シンシャ。あの子は少し、危なっかしいところがあるから。』)

 

シンシャ『……………………。』

 

 

『お母様が私たちの前からいなくなったあの夜……。』

『あの時から……。ううん、きっともっと前から、グラージャの歩む道は決まっていたんだと思う。』

 

 

 

Quest 8 「国の未来の行方」

 

-双翼のレスレクティオ-

 

-第2部-

 

カナン『シンシャ様、情報は確かのようです。』

 

シンシャ『……………………。』

 

カナン『あの日、邪王の祭壇から去る闇の司教殿の姿が目撃されています。やはりあの幻獣の裏には闇の教団の……。』

 

シンシャ『闇の教団の……。ジャンナの真意を確かめなければ。』

 

カナン『エレオノーラ様亡き後、教団の均衡は失われ、この国は闇の教団の理念に傾きかけています。』

 

カナン『シンシャ様もご承知でしょうが……。彼らは他国と結び、グラージャを武力によって富める国へとしようとしています。』

 

カナン『……大司教様が不在の今こそ、光と闇の教団が協力しなければならないのに。私は……光の教団の司教として情けないです。』

 

シンシャ『私も同じ気持ちよ、カナン。お母様の代わりは、誰にもできないのね。』

 

シンシャ『……でも、それもここまで。光と闇の均衡を取り戻すため、闇の教団の本部へ赴き、彼らと対話します。』

 

カナン『シンシャ様……。』

 

シンシャ『この国が歩むべき道は戦いじゃない。そんなことは、ミトラとグノシス……。何より、お母様が望んでいないもの。』

 

シンシャ『彼らがあの幻獣を影で操っていたというのなら、その真意を問い正します!』

 

(戦闘)

 

カナン『ジャンナ! 光の神子であるシンシャ様を捕らえようとするとは何事か!!』

 

ジャンナ『シンシャ様……名継ぎの儀式を早めます。シンシャ様はミトラの名を継ぎ、ティアナ様はグノシスとなる。』

 

シンシャ『……あなた達は一体何を考えているの?あの日、邪王の祭壇にあの幻獣を放ったのは本当にあなたなの? ジャンナ。』

 

ジャンナ『それは……。』

 

ノア『あの幻獣、レギオタズマがこの国を訪れたのは自然の摂理に近いもの。いわば帰巣本能とでも言うものだ。』

 

カナン『……なにやつ!?』

 

シンシャ『あなたは……誰?闇の教団の者ではないわね。』

 

ノア『私が何者かなどどうでも良い。光の神子よ、私はお前が知りたい真実を話してやることができるぞ。』

 

ノア『ミトラとグノシス、その起源をな。』

 

シンシャ『双子神の……起源?』

 

ノア『今では双子神と言われているミトラとグノシスは、かつて1つの存在だった。』

 

ノア『その正体は、1000年以上前、この天涯の大地に住む人々のために戦った、1人の人間の英雄だ。』

 

カナン『……何を言っている。そのような事、聖典には記されていない……。』

 

ノア『ミトラとグノシスを神格化するグラージャの聖典には、記すことのできない事実であるからな。』

 

ノア『歴代の大司教くらいには口伝として伝わっていたかもしれぬが。』

 

シンシャ『なぜ……2神は生まれたの?』

 

カナン『シンシャ様!このような者の言うことに耳を傾けては……。』

 

シンシャ『私は……知りたいの、カナン。グラージャの神、その起源を……。』

 

ノア『……モンスターや幻獣に怯え暮らす人々を守るため英雄はあるものの力を借りた。この燭台だ。』

 

ノア『燭台は英雄に絶大な力を与えたが、その英雄の大切なものを次第に奪っていった。人々のために戦うという、その清い心だ。』

 

ノア『燭台の力を酷使し続ければ、やがてその心は燭台に溢れる古代の意志に支配される。』

 

シンシャ『古代の意志……。』

 

ノア『何が英雄をそこまで駆り立てたのか。英雄へと寄せる人々の期待や尊敬の念。あるいは、守れず死んでいった人間の想いか。』

 

ノア『それらの感情は思念となり、淀みを生み、英雄を責め苛んだ。』

 

カナン『淀み……。』

 

ノア『その苦しみから逃れるために……。英雄はその体と心を分かち、燭台の支配から逃れたのだ。』

 

ノア『人々を愛し導く光。そして邪悪を滅する力を持つ闇へとな。』

 

ノア『2つの存在からこぼれ落ちた燭台の意志は暗く沈殿する怨念となってこの世をさまよい、再び燭台へと戻っていった。』

 

シンシャ『まさか……あの時の幻獣は……。』

 

ノア『そう。あの幻獣、レギオタズマこそ、英雄が打ち捨てた燭台の意志だ。』

 

ジャンナ『この国は……強くならなければならないのです。シンシャ様。』

 

ジャンナ『かつて英雄が持っていた圧倒的な力を取り戻し、他国と結び……。貧しさから脱却する必要があるのです!』

 

シンシャ『力を……取り戻す? どうやって……。』

 

ノア『光のミトラは英雄の心。闇のグノシスは英雄の力をそれぞれ受け継いだ。必要なのは……力だけだ。』

 

ノア『レギオタズマを闇の神子の体と融合させる。』

 

シンシャ『…………!!』

 

ノア『かつて1つだった存在。その力だけが顕現すればレギオタズマはかつての英雄を遥かに凌ぐ存在へと昇華するだろう。』

 

ノア『光の神子よ。運が良かったな。その身を捧げるのは、闇の神子の役目だ。』

 

シンシャ『ティアナを……。あの幻獣の餌食にするというの!?』

 

ノア『あくまでそれは最初の一歩に過ぎぬがな。名継ぎの儀式を終え、邪王の祭壇にてレギオタズマの篝火に神子を捧げる。』

 

ノア『それにより、闇の神グノシスは完成する。』

 

ジャンナ『これは……グラージャの民が望んでいることなのです。』

 

シンシャ『望んでいる……。全ての人々が?あの子を……ティアナを犠牲にすることを望んでいるというの!?』

 

シンシャ『あなた達は、ティアナの命を使ってグラージャに本当に平和が訪れると思っているの!?』

 

ジャンナ『……………………思っています。』

 

シンシャ『ジャンナ……!!』

 

ジャンナ『このまま、モンスターや幻獣……。他国の脅威に怯えたままでは、我らは確実に滅びの道を歩みます。』

 

ジャンナ『たとえ犠牲を払ったとしても……。より多くの国民を救うために、歯を食いしばり耐えねばならないのです!』

 

ノア『大司教亡き今、闇の教団の勢力はもはや光の教団の意志を飲み込もうとしている。』

 

ノア『この国の民全てが、闇の神子の身を捧げよ、と叫んでいる。国民の意志を体現することが、使命なのではないか? 光の神子よ。』

 

カナン『シンシャ様……。』

 

シンシャ『…………させない。』

 

ノア『……ほう?』

 

シンシャ『あなた達がどれだけ数が多くても……。』

 

シンシャ『この世界の全てが……。ティアナの身を捧げろと迫ってきたって!』

 

ジャンナ『シンシャ様……。』

 

シンシャ『血を……魂を分けたあの子を犠牲にするなんて……私が許さない!ティアナは……私が守る!』

 

 

 

Quest 9 「涙と決意と」

 

ティアナ『うぅ……ひっく。お母様……お母様……。』

 

イーリス『……また泣いているのか、ティアナ。』

 

イーリス『今のお前たちは見分けがつきやすいな。いつまでもベソかいているのがティアナだ。』

 

ティアナ『イーリス……だって、だって……。』

 

イーリス『……この国を出るんだ、ティアナ。』

 

ティアナ『え……?』

 

イーリス『ジャンナ様のお考えが、ようやくわかった。ジャンナ様は……いや、この国の民は、あの幻獣を迎え入れようとしている。』

 

ティアナ『幻獣を……迎え入れるって……。』

 

イーリス『あの日、お前を邪王の祭壇に呼んだのも、全てはあのおぞましい幻獣を、お前の身に宿すのが目的だったんだ。』

 

イーリス『闇の教団は……いいや、グラージャの民は、お前の身を捧げることで力を得ようとしている。』

 

ティアナ『……どういうこと?私わからないよ……。』

 

イーリス『いいから早く……!』

 

『イーリス、余計なことをしゃべるな。』

 

イーリス『闇の教団の……。』

 

『ティアナ様、これは決定したことなのです。グラージャの民の総意なのです。』

 

イーリス『なんて数だ。教団の者全員が、ジャンナ様のお考えに賛同しているというのか……。』

 

『無駄な抵抗はやめろ、イーリス。お前は反逆者として監禁させてもらう。』

 

イーリス『何が反逆者だ!!教団の象徴たる神子を犠牲にしようとするお前たちがそれを言うのか!』

 

『グラージャのためを思えばこそだ。我々の意志はジャンナ様と共にある。』

 

イーリス『……ふざけるな。お前たちは、あのノアとかいう男の言葉を盲信しているだけだ。』

 

イーリス『ジャンナ様はこの国を愛している!この国を想うあの方に寄り添うばかりで、何も考えないお前たちこそ反逆者だ!!』

 

『なんとでも言え。これでグラージャはギルサニアやボウラキアに並ぶ力を手に入れることができるのだ。』

 

『シンシャ様が最後の抵抗をしているが、それも、もはや終わるだろう。』

 

ティアナ『シンシャが……?』

 

(戦闘)

 

ジャンナ『…………くう。はぁ……はぁ……はぁ。』

 

ノア『ここまでの抵抗は予想外だった。』

 

カナン『やらせるものか。私が生きている限り……。』

 

カナン『名継ぎの儀式が終わるまでは、シンシャ様もティアナ様も、神子である前にグラージャに生きる子供だ。』

 

カナン『この国に生きる者は私が守る。それが、光の司教としての私の使命だ!!』

 

ジャンナ『……………………!』

 

ノア『……勇ましいものだな、司教殿。光の神子の方は、抵抗する気は失せてきたようだが。』

 

ノア『これだけの数の魔導兵を敵にしては、もはや双子を守る意志も続かぬだろう。』

 

カナン『シンシャ様……!?』

 

シンシャ『ジャンナ……武器を下ろしなさい。そして……私の顔を見なさい。』

 

ジャンナ『シンシャ様……。』

 

ティアナ『ジャンナ……あなたはなぜ……。そんなに苦しんでいるの。』

 

ジャンナ『シンシャ様、私は……。』

 

シンシャ『あなたは……大司教様を……お母様を死に追いやってしまったことを、とても後悔しているのね。』

 

ジャンナ『シンシャ様。私たちはどんな犠牲を払おうとも……。』

 

シンシャ『血が滲むほど武器を握りしめて……。それが、あなたの意志なのね。』

 

シンシャ『苦しみから解放されたい。弱き民を救いたい……。あなたの心は……グラージャを想っているのね。』

 

シンシャ『復活祭のランタンには、そんな想いが込められていたのかもしれない……。』

 

ジャンナ『シンシャ様。どうか……こらえてください。この国が世界の脅威と戦うためには、英雄の力が必要なのです……!』

 

シンシャ『それが……この国のみんなの想いなのね。』

 

シンシャ『だったら私は……苦しんでいるあなた達と……。これ以上戦えない……。』

 

ノア『理解していただけたようだな。無駄な犠牲を出さない、賢明な判断だ。』

 

カナン『シンシャ様! 何を言うのです!!彼らはティアナ様の身を、あの幻獣に捧げようとしているのですよ!?』

 

カナン『あの幻獣に飲み込まれたイーリスは、自分の心が全て飲み込まれるような苦しみを味わったといいます。ティアナ様にそのような……!』

 

シンシャ『……………………。』

 

シンシャ『あなた達に……従いましょう。』

 

カナン『シンシャ様!!』

 

シンシャ『カナン。これ以上、グラージャの人々が争うのを私は見たくない。きっと……お母様も。』

 

ジャンナ『どうか……シンシャ様……!』

 

シンシャ『もう、抵抗はしません。あなた達に従いましょう。でも……。』

 

シンシャ『1つだけ…………条件があります。』

 

 

『これは私の罪……。私はあなたを裏切ってしまった。』

『あなたがこの国を想う気持ちを知りながら……。あなたの心を知りながら。』

『ごめんなさい……ティアナ。』

 

 

 

Quest 10 「闇と光の誕生」

 

3日後。

 

ドンドンドン!!

 

ティアナ『ねえ! 誰かいないの!?ここから出して!!』

 

ティアナ『イーリスは……シンシャはどうなったの!?私は抵抗しないから! 私はあの幻獣を受け入れるから、シンシャにひどいことしないで!!』

 

ティアナ『名継ぎの儀式をするなら早くして!私はもう逃げないって決めたの。グノシスを……あの幻獣を受け入れるから。』

 

ティアナ『お願い……シンシャに会わせて……。』

 

カナン『……………………。』

 

ティアナ『カナン……!』

 

カナン『ティアナ様……。』

 

ティアナ『ねえ、カナン! 教えて。シンシャはどこにいるの?』

 

ティアナ『闇の教団に抵抗しているって聞いたわ。私なら大丈夫。グノシスの名を継ぐから。だからお願い、シンシャを……。』

 

ティアナ『シンシャに……ひどいことしないで。』

 

カナン『名継ぎの儀式は……もうよいのです。』

 

ティアナ『え……?』

 

カナン『私はティアナ様を、秘密裏にグラージャから脱出させます。それがシンシャ様の意志です。』

 

ティアナ『何を言っているの、カナン……。』

 

カナン『シンシャ様がこれを。ティアナ様への手紙です。』

 

ティアナ『シンシャ……?』

 

カナン『ティアナ様。お辛いでしょうが、危険の及ばない他国まで逃げましょう。今のグラージャでは、あなたの身は危険……。』

 

ティアナ『シンシャ!!』

 

カナン『あ、ティアナ様!!』

 

 

『あなたがこの手紙を読んでいる時、私はもうあなたが知っているシンシャではなくなっているかもしれないね。』

『私達の愛したグラージャは、これから破滅への道を歩き始めるのかもしれない。……私はそれを止めたかった。』

『でも……ごめんね、止められなかった。ごめんね、ティアナ。』

 

 

ティアナ『シンシャ……シンシャ!!』

 

 

『ティアナ。いつも将来のことを話したね。あなたはいつも、お母様と私だけ守れればそれでいいって言ってたね。』

『それじゃダメだよって私は言っていたけど、結局……結局ね、私もティアナと同じだったよ。』

『他国の人々に恨まれても、平気。グラージャの人々に殺されたとしても、全然平気。』

『これから私は、どんなにひどいことをするかわからない。あなたに嫌われるかもしれない。でも……。』

『あなたを失うことだけは耐えられない。血も、力も、魂も分け合った姉妹だもの。』

『勝手なことを言ってごめんなさい。それでもあなたには……。』

 

(戦闘)

 

ティアナ『シンシャ!!』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『どうして……。』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『どうしてシンシャが犠牲にならないといけないの!私がグノシスにならなきゃいけないのに!!』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『お願い、シンシャを……。シンシャを返して……。』

 

カナン『ティアナ様!!この方はもう、グノシスとなられたのです。名継ぎの儀式を終え、あの幻獣を受け入れ……。』

 

カナン『どうか……ティアナ様。シンシャ様の気持ちを汲んでください。この国を出るのです……。』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『グノシスじゃない……あなたはシンシャだよ。……わかるもの。あなたが苦しんでいるのが……。』

 

ティアナ『だって、こんなに私の胸が痛いもの!!』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『まだそこにいるよね、シンシャ。約束したもの。私たちは一緒だもの……。』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『あなたがどこにいたって!私が見つけるから!!』

 

グノシス『……………………。』

 

ティアナ『私が……きっと見つけてみせるから!!』

 

 

『それでもあなたには……笑っていてほしい。私はあなたの、キラキラした笑顔が好きだから。』

 

 

ティアナ『あなたがどこにいたって!!私が……! 絶対……。』

 

 

『私のことは大丈夫。大丈夫だよ。さようなら……ティアナ。』

 

 

 

Quest 11 「闇から光に紡ぐ言葉」

 

1年後、天涯の大地グラージャの最奥。邪王の祭壇にて禁断の儀式が断行されようとしていた。

闇の神子の身をかがり火にくべ、千年前の神へと生まれ変わらせる禁じられた儀式。

光の教団の教主ミトラは、双子の妹グノシスを取り戻すため、仲間の力を借り、邪王の祭壇の最奥へと駆け下りていた。

 

ナディア『……そう、グラージャの神子さん達にそんな過去が……。』

 

サシャ『時忘れの古代図書館ってとこに閉じ込められている間に、色々聞いたんです。』

 

ナディア『……かつて2つに別れたミトラとグノシス。私がこの場に居合わせたのも……。ひとつの縁なのかもしれないわね。』

 

サシャ『え? 何か言いました?』

 

ナディア『……いいえ。神子さんのために、力を貸してあげないといけないわね。』

 

サシャ『そうですね。ここに多くの敵を引きつければ、それだけ神子さんが動けますもんね!』

 

サシャ『さぁ!!あなた達の敵はここにいますよーーー!とんでもない魔力を持った伝説の魔女様ですよ!』

 

サシャ『早く始末しないと、国が滅ぼされちゃいますよーー!さあさあ、かかってきなさーーい!』

 

ナディア『化物扱いなんてひどいわね。』

 

(戦闘)

 

サシャ『よし、これでようやく私たちも最下層に……。って! あれ、まずくないですか!?』

 

ナディア『闇のかがり火に、グノシスが落ちようとしている……。』

 

サシャ『私たちじゃ間に合わない。領主さんは何をしてるんですか!』

 

ミトラ『くっ……うぅ……!』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『うっ…………くぅ!』

 

グノシス『……放せ……光の神子。』

 

ミトラ『…………?』

 

グノシス『この身は邪王の炎に焼かれ、我は神の力を取り戻す。』

 

ミトラ『放さない……絶対に放さない!』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『生まれた時からずっと一緒だった。』

 

ミトラ『血も……力も……。魂だって分け合った、姉妹だもの……。』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『あなたが助けを呼ぶ声が……。今も聞こえているもの!!』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『この手を放すことは……。私の魂を見殺しにするのと同じだから!』

 

ミトラ『だから……。』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『だから……絶対に放さない……!』

 

グノシス『……………………。』

 

グノシス『ティアナ……ありがとう。』

 

ミトラ『……シン、シャ……?』

 

グノシス『ティアナ……ありがとう、見つけてくれて。こんなに傷だらけになって、苦しんで……。』

 

ミトラ『あなた、意識が……。』

 

グノシス『……でももう、苦しまないで。これは仕方のないことなの。私のことは、もう追いかけないで。』

 

グノシス『…………ちゃんと、お別れが言えてよかった。』

 

ミトラ『……っ!!』

 

グノシス『さよなら、ティアナ……。』

 

ミトラ『シンシャ……シンシャーーー!!』

 

 

 

Quest 12 「紅く染まる闇の手」

 

-双翼のレスレクティオ-

 

-第3部-

 

ワアアアアアァァァアアア!!

 

『う、うわあああああああ!!』

 

『な、なんだあの力は……。あんな……あんな化け物!』

 

グノシス『……………………。』

 

『うぎゃああああああ!!』

 

『ひ、ひいいいいいい!!やめてくれ、降伏するから、命だけは、命だけは……!!』

 

グノシス『……………………。』

 

(戦闘)

 

『ぎゃあああああああ!』

 

『誰か、助けて……!』

 

『もう……やめて。』

 

『うう……ぐぅ……。』

 

『うわあああああああ!!』

 

『お願い……お願いだから。もう……やめて。』

 

『これ以上……傷つけないで。』

 

 

 

Quest 13 「魔女の助言」

 

邪王の祭壇にて行われた儀式から1ヶ月が過ぎようとしていた。

グラージャへと残ったミトラは、グラージャの混乱を収めるため奔走していた。

 

ミトラ『……………………。』

 

ミトラ『カナン、闇の教団の動向は?』

 

カナン『闇の教団は、今はもはやあの男……。ノアの傀儡となっています。』

 

カナン『あの男はグノシス様の力を利用し、グラージャは今、他国の脅威となっています。』

 

カナン『ジャンナ……闇の司教殿も、あれ以来行方知れずとなっています。』

 

ミトラ『カナンは……ジャンナとは教団に入る前からの付き合いだったのよね。』

 

カナン『はい。私はかつて、殺しを生業にする暗殺者でした。』

 

カナン『人をこの手にかけ続けた汚れた人生。ジャンナも同じです。私達を救ってくれたのは大司教様でした。』

 

カナン『かつての仲間が犯した罪は、私も同罪です。ジャンナとの決着は、私が必ず……。』

 

ミトラ『ジャンナは純粋にグラージャを想っていただけ。今になって、ようやくその気持ちがわかる。』

 

ミトラ『ごめんなさい、あなたを責めるつもりじゃないの。ただ……早く見つかるといいわね。』

 

カナン『……はい。』

 

カナン『ミトラ様も、お休みになってください。旅から戻られて、充分に睡眠も取らずに国内の混乱を静めているのですから……。』

 

ミトラ『大丈夫。どうせ寝室に入っても眠れないと思うから。』

 

ミトラ(あの時……シンシャの手を放してしまった。あの子が遠ざかっていく刺すような痛みで……。眠れそうにないもの……。)

 

 

ワァァァァァァァアアアアア!!

 

 

イーリス『てやあああぁぁぁぁあ!』

 

カナン『……何事だ!?』

 

(戦闘)

 

イーリス『くっ……怪しいやつ!光の教団の本部になんの用だ、魔女め!』

 

ナディア『もう、ずいぶん手荒い歓迎ね。』

 

ミトラ『イーリス、やめて。その人は……。』

 

ナディア『お久しぶりね、光の神子さん。邪王の祭壇での一件以来かしら。』

 

ミトラ『ナディアさん。あなたがどうしてグラージャに?』

 

ナディア『時間に猶予はあまりないから、手短に説明するわね。グノシスがギルサニアの内戦に現れたわ。』

 

ミトラ『…………!!』

 

ナディア『私は大きな犠牲が出る前に、闇の神子さんを戦場から連れ去った。』

 

ナディア『グノシスの力を抑えるのは骨が折れたけど……。彼女は今、神宿りの森にいるわ。』

 

カナン『神宿りの森……。大陸西方に広がる世界樹を中心に広がる神秘の森……。』

 

ミトラ『なぜ、グノシスがそこに……?』

 

ナディア『理由は神宿りの森に行けばわかるわ。双子を救い出すチャンスかもね。あなたが望むなら、連れていってあげる。』

 

ミトラ『……………………。』

 

カナン『ミトラ様! 行ってください。グノシス様の元へ。』

 

ミトラ『カナン……。』

 

カナン『シンシャ様を犠牲にしてグラージャを救う。私たちはあの時、大きな過ちを犯してしまった。』

 

カナン『あなたには、この国を捨て逃げて欲しいと願いました。しかし……。あなたは名継ぎの儀式を行い、ミトラとなった。』

 

カナン『ミトラとしてこの国を救おうとするあなたを見て、私はようやく過ちに気付いたのです。』

 

カナン『シンシャ様の犠牲の上に成り立つ平和など、グラージャの真に進むべき道ではない。』

 

ミトラ『カナン……ありがとう。』

 

ナディア『言っておくけど、危険な道のりよ。あの森は今、幻獣の襲撃に遭っている。到着した瞬間から、戦いが始まると思いなさい。』

 

イーリス『問題ない。光の神子は私が護衛するからな。』

 

ナディア『頼もしい護衛さんね。私も少しだけ用事を済ませたら合流するわ。それまで、神子さんをお願いね?』

 

イーリス『当然だ。それが私の使命だからな。』

 

ミトラ『邪王の祭壇……。私はあの時、あの子の手を放してしまった。』

 

イーリス『おい、ミトラ。まさか、怖気づいてるんじゃないだろうな。』

 

イーリス『あいつに別れを告げられたからって、自信を無くしてるんじゃないだろうな。』

 

ミトラ『ううん……大丈夫。手を放してしまった、だからこそ……。』

 

ミトラ『今度はもう……絶対に放さない。』

 

イーリス『……だんだん似てきたな。』

 

ミトラ『……え? 何か言った?』

 

イーリス『……別に。』

 

 

 

Quest 14  「神樹にて」

 

大陸西北部、神宿りの森。

 

グノシス『……………………。』

 

グノシス『うっ……うぅ……!ぐぅ……あああ!』

 

ユグドラシル『……………………。』

 

ユグドラシル『グノシスさん~……。』

 

グノシス『ううぅぅ……ああ。』

 

フェンリル『ユグ様、また幻獣どもが攻めてきたぞ。きっと”ぐじゃんぐじゃ”のやつらが連れてきたんだ!』

 

ユグドラシル『フェンちゃん~。ぐじゃんぐじゃんじゃなくて、グラージャですよ~。』

 

フェンリル『それそれ、ぐじゃんじゃ!前よりもたっくさんだぞ!』

 

ユグドラシル『グノシスさんを連れ戻しにきたのですね~。』

 

フェンリル『そんなヤツ、早く渡しちゃえばいいのに。森に来てから眠ってばかりじゃないか。』

 

ユグドラシル『フェンちゃん。グノシスさんは必死に戦っているんですよ~。』

 

グノシス『う……ぅぅ……。』

 

フェンリル『苦しそうだ……怖い夢を見ているのか?』

 

ユグドラシル『そう、とても怖い夢……。神樹の力でその恐怖を取り除こうとしても、古代の意志はそれを許しません~。』

 

ユグドラシル『長い時を経て、積み重なった淀みは、グノシスさんの心を完全に消し去ろうとしています……。』

 

ユグドラシル『森にたどり着くのがもう少し遅ければ、間に合わなかったと思います~。』

 

フェンリル『うぅ……難しいことはわからないぞ。』

 

ユグドラシル『怖い夢を見ている時、フェンちゃんはどうして欲しいですか~?』

 

フェンリル『はいはい! なでなでがいいな!』

 

フェンリル『ユグ様と初めて会った時に、痛いお腹をなでなでしてくれたみたいに!』

 

ユグドラシル『ふふふ、そうですね~。優しくなでなでは嬉しいですね~。』

 

フェンリル『そっか。こいつもお腹が痛いんだな?じゃあ、助けてあげないとだな!』

 

ユグドラシル『そうですね~。それに~、昔のお友達が私を頼ってくれたんです~。頼りになるところを見せなくちゃ、ですね~。』

 

フェンリル『あたしも戦うぞ!戦ってユグ様を守るんだ。がおーー!』

 

ユグドラシル『ありがとう、フェンちゃん。無理をしてはダメですよ~。』

 

ユグドラシル『森の東をシグルスさんとリィンフィリアさんが守っているので~。お手伝いしてあげてください~。』

 

フェンリル『ユグ様、”ごーかい”だぞ!!』

 

ユグドラシル『…………???』

 

ユグドラシル『フェンちゃん、それを言うなら了解ですよ~。』

 

フェンリル『それだ!』

 

ユグドラシル『……………………。』

 

ユグドラシル(グノシスさんを蝕む力がどんどん強く……。彼女の意識はもう、消える寸前……。)

 

ユグドラシル(以前、神樹が火に包まれた時と同じように、森には瘴気が満ちている……。)

 

ユグドラシル(幻獣の脅威も迫っています~。シグルスさん、リィンフィリアさん……。森を……お願いします~。)

 

(戦闘)

 

神宿りの森、西部。

 

イーリス『くっ……辺り一面火の海じゃないか。あの魔女の言ったことは本当みたいだな。』

 

イーリス『この森はもはや戦場だ。グノシスを取り戻すために、敵の軍勢が攻めてきているんだ。』

 

ミトラ『……………………。』

 

イーリス『おい! 何をボサっとしているんだ!あの大木を目指すぞ!』

 

ミトラ『あ、うん。あれが神樹ユグドラシルなのね。行きましょう、イーリス。』

 

ミトラ(なんだろう、この森に着いた時から感じる懐かしい気持ちは……。)

 

ミトラ(あの神樹から、あの子の気配を感じる。そのせい? それとも……。)

 

イーリス『おい、あれは……!』

 

ジャンナ『……………………。』

 

イーリス『ジャンナ様! どうしてここに……。』

 

ジャンナ『グノシスを……取り戻す。力を……グラージャに力を……。』

 

イーリス『私たちがわかっていない?様子がおかしいぞ。それに、ジャンナ様が手にしているのは……。』

 

ミトラ『燭台……?』

 

ジャンナ『グノシスを……この手に……!』

 

 

グオオオオォォォオオオ!!

 

 

 

Quest 15  「立ちはだかる闇」

 

グオオオオォォォオオオ!!

 

『光の神子……。今さらあなたを相手にしている暇はない。大人しく国で聖典でも読んでいるがいい。』

 

イーリス『闇の教団の……。それに、幻獣を呼び寄せているのは……あの燭台の力なのか!』

 

ミトラ『あの力からは……危険なものを感じる。ジャンナの意識や命までも吸い取っているような……。』

 

『我らはもはや国に縛られる理由は何一つない。ノア様の思想に従うだけだ。』

 

『闇の司教様も同じだ。ジャンナ様はノア様を信じ、燭台の力を使い続ける。』

 

イーリス『あいつか……あの、ノアとかいう男がジャンナ様を……!!』

 

『ノア様はグラージャに現れた救世主だ!グノシスの力を解放し、幻獣や他国の脅威から我らを守ってくれる。』

 

『そしていずれは、我らにもグノシス様のような力が与えられるのだ!』

 

ミトラ『あの男からはなんの感情も読み取れない。少なくとも、あの男はグラージャを救おうとはしていません。』

 

『光と闇の教えが我らを守ってくれるか!我らに必要なのは、グノシスの圧倒的な力とノア様だけなのだ。』

 

『あなたに力があれば、我らはこれほど苦しむ必要などなかったのだ。そうだろう、光の神子様!』

 

ミトラ『私に……力があれば……。ジャンナはこうならずにすんだ……?シンシャも、自分を犠牲にせずに……。』

 

イーリス『ふざけるな!!自分の力の無さを棚にあげて他人のせいにしているだけじゃないか!』

 

イーリス『力が無いなら強くなればいい!強くなろうとする意志を無くしたお前たちに私は絶対に屈しない!!』

 

ミトラ『イーリス……。』

 

『ならば我らの包囲を突破してみろ。ジャンナ様が操る幻獣の群れを倒してな。』

 

ミトラ(あの子が苦しんでいるのがわかる……。早くあの子の所に行かなければならないのに。こんな所で……!)

 

ミトラ(私に力があれば……。ジャンナは苦しまなくてよかったの……?)

 

ミトラ(私に力があれば……。あの時、あの子を手を離さずにいられたの……?)

 

 

グオオオオォォォォオオオ!!

 

 

イーリス『ミトラ、危ない!!』

 

ミトラ『……!!』

 

 

……………………。

 

グオオオオォォォォオオオ!!

 

……………………。

 

 

ミトラ『……………………?』

 

サシャ『あのー! 人をいきなり、こんな危険な場所に放り込まないでくれます?』

 

ナディア『でも、間に合ってよかったじゃない。危機一髪だったみたいね。』

 

サシャ『……ですね。』

 

ミトラ『ナディアさん……サシャさん!』

 

サシャ『おまたせしました、神子さん!護衛に来ましたよ!!』

 

イーリス『あの時の魔女……それに……。』

 

サシャ『そっちの護衛さん、さっきいいこと言いました。力が無いなら強くなればいい。でも、方法はもうひとつありますよね。』

 

サシャ『力が無いなら、頼ればいいんです!そのために私は、ここに来たんですから!!』

 

(戦闘)

 

サシャ『さあ、神子さん! 早くこっちへ!』

 

ミトラ『サシャ……さん。どうして……。』

 

サシャ『グラージャ以来ですね。姉妹ゲンカはまだ終わってないですよね?』

 

サシャ『寂しいじゃないですか。どうして、なんて聞かないでくださいよ。』

 

ミトラ『……ありがとう。』

 

サシャ『さあ、あの大木に急ぎましょう!』

 

ナディア『この森は今、東と西の両側から幻獣やグラージャの魔導兵の襲撃を受けているわ。』

 

ナディア『東はユグドラシルの仲間が守ってくれている。私たちはここを抜けて神樹を目指さないと、ね。』

 

サシャ『囲みは突破しましたから、あとはあの神樹に向かって一直線ですね。』

 

ジャンナ『行かせるわけにはいかない……。神樹ユグドラシルを滅ぼし……。グノシスを取り戻す。』

 

イーリス『……ジャンナ様!』

 

サシャ『燭台を使って、幻獣の力を引き出している張本人っていう訳ですか。あれを倒して、燭台を奪えば……!』

 

イーリス『……ジャンナ様を舐めるなよ。闇の教団の司教様は簡単には倒せない。』

 

ジャンナ『グノシスを取り戻し……。この世界に、破滅を……。』

 

ナディア『ただ事じゃないわね。力を使い続ける内に、燭台の意志に心を乗っ取られたのね。』

 

サシャ『……………………。』

 

イーリス『ああ。わかっているさ。ジャンナ様は操られているだけだ。昔も今も……

血が滲むほど強く武器を握り、苦しんでいる。』

 

イーリス『ミトラ、ここは任せて先に行け!ジャンナ様は私が助け出す。お前がそこまで背負い込まなくていい!』

 

ミトラ『イーリス……。』

 

イーリス『まったく、いつまで経っても世話の焼ける。……でも、お前はそれでいいんだ。』

 

イーリス『背中は守ってやる。全力で走って、さっさとバカな妹の頭をひっぱたいてこい!』

 

サシャ『それじゃ、私の居場所もここですね。』

 

ミトラ『サシャさん……。』

 

サシャ『神子さん。私にも、たくさん妹や弟がいるんです。孤児院育ちだから、血はつながってないですけど。』

 

サシャ『昔からケンカはしょっちゅうでした。うんざりする時もありますけど、姉妹ってそういうものだと思うんです。』

 

サシャ『聞き分けのない妹には、たまにはガツーンと言ってあげないとね。』

 

ミトラ『……………………。』

 

サシャ『ここは任せてください。今度こそ勝たなきゃダメですよ?』

 

ミトラ『サシャさん、イーリス……。 ……………………はい。行ってきます!』

 

 

……………………。

 

 

イーリス『ひとりで充分だっていうのに……。』

 

サシャ『……………………。』

 

イーリス『なんだ、人の顔をジロジロ見て。』

 

サシャ『いいえ。神子さんの言うとおり、ちょっと似てるかな~って。』

 

イーリス『なんだ、ニヤニヤして怪しいヤツだな。自分の置かれた状況がわかっているのか?緊張感が足りないぞ。』

 

サシャ『性格は似ても似つかないですけどね~。』

 

ジャンナ『邪魔をするな……。グノシスを必ず……手に入れる。』

 

イーリス『ジャンナ様……。私が弱かったばかりに、あなたをそこまでさせてしまった。』

 

イーリス『私は今度こそ……仲間を守ってみせる!』

 

 

 

Quest 16  「約束と履行」

 

 ……………………。

 

グノシス『……………………。』

 

グノシス『近づいて……くる……。』

 

……………………。

 

ナディア『もう時間はないわね。グノシスの力は神樹ユグドラシルが抑えているけれど、それももう限界に近いわ。』

 

ナディア『あの幻獣の奥底で眠る彼女の意識を呼び覚ます。それも、確実な方法ではないけれど……。こんな危険な賭けに挑ませて、ごめんなさい。』

 

ミトラ『……あなたが助言をくれなければ、私はあの子を取り戻す希望すら持つことはできませんでした。』

 

ナディア『助言……?いいえ、私は約束を守っているだけ。』

 

ミトラ『え……?』

 

ナディア『光と闇……ミトラとグノシスに別れる前に、グラージャの地を守っていた英雄は……私の同族なの。』

 

ミトラ『同……族。』

 

ナディア『天涯の地の人々を守るために身と心を削り戦うあの人に……。』

 

ナディア『燭台の力を使ってまで、愛する人々を守ろうとしていたあの人のために、私にできることは少なかった。』

 

ナディア『燭台の力に飲み込まれないように、ユグドラシルの力を借り、力と心の分離を提案したのは私。』

 

ミトラ『……………………。』

 

ナディア『私はあの人と約束をしたの。その約束を守っているだけよ。あなたは、闇の神子さんを取り戻したい?』

 

ミトラ『……………………。』

 

ミトラ『………………はい。』

 

ナディア『……そう。それなら私は力を貸すわ。あなたを止めてでもね……ノア。』

 

ノア『……ナディア。ずいぶんと久しいな。』

 

ミトラ『あなたは……!』

 

 

……………………。

 

 

イーリス『くっ……! ジャンナ様、強い。』

 

サシャ『幻獣も集まってきた……。けっこう厳しい状況ですね。』

 

イーリス『ふんっ。弱音を吐くなら残らなければいいんだ。まあ、元々私一人で食い止めるつもりだったけどな。』

 

イーリス『私はこの旅に後退する足を持ってきていない。この命を盾にして、あいつらを守る。』

 

イーリス『それが、あの日大司教様を守れなかった私の罰だ。』

 

サシャ『……………………。』

 

イーリス『お前はそろそろ逃げたらどうだ。ここで命を無駄にする理由なんて無いだろう。』

 

サシャ『そうですね。あなたと違って、私は生きなきゃ。』

 

サシャ『生きている限り、泥をすすって、砂をかじってでも……誰かを助ける。そう決めましたから。』

 

サシャ『イーリスさん、でしたよね。私と一緒に戦ったのが運の尽きですよ。……絶対に死なせませんから。』

 

イーリス『……はあ!?言っていることがメチャクチャだぞ、お前?』

 

サシャ『私は生き抜きます。生きている限り、誰かを助けます。最後に罰を受ける時まで。』

 

イーリス『……………………。』

 

サシャ『まずはあの人を助けないと、ですね。かなり手強い相手ですけど。』

 

ジャンナ『世界を脅かす幻獣……。西のボウラキアの脅威……。我らには力が……必要なのだ。』

 

イーリス『連中を神樹の元に行かせないだけで精一杯だ。そんな余裕は……。』

 

 

……………………。

 

 

サシャ『なんです、これ……魔力の結界?』

 

イーリス『敵の動きを止めている……。こんなことができるのは、まさか……。』

 

カナン『あの燭台を奪えばいいのだな。』

 

イーリス『カナン様!!』

 

カナン『光の教団の魔導兵によって、神樹の周囲に結界を張った。』

 

カナン『ミトラ様の邪魔は我らがさせん。グラージャを……取り戻そう。』

 

カナン『それに私には、もう一つ取り戻さなくてはならないものがある。』

 

ジャンナ『……………………。』

 

カナン『連れ戻しにきたぞ! ジャンナ!!』

 

(戦闘)

 

ジャンナ『……………………。』

 

カナン『幻獣の脅威。西の軍事国家の侵略。君は多くのものを抱え込みすぎだ。』

 

カナン『大司教様の命を奪ってしまったあの事件、あれは君の責任ではない。』

 

ジャンナ『……………………。』

 

カナン『自分の罪を償うために、燭台の力に自分の心を飲み込ませたんだろう。』

 

カナン『……君は昔から責任感が強かったな。その苦悩に気づかなくてすまなかった。』

 

ジャンナ『違う……私は……。』

 

カナン『グノシス様を取り戻そうとするミトラ様の姿を私は見てきた。』

 

カナン『やり直そうとする意志、再び始めようとする強い決意。私に足りなかったものだ。』

 

カナン『私はここに、光の教団の司教として来たのではない。ただの一人の男として……。』

 

ジャンナ『カ……ナン……。』

 

カナン『お前を想う一人の男として、ジャンナ! お前を取り戻しに来た!!』

 

 

……………………。

 

 

ノア『グノシスを取り戻す……。そんなことが可能だと、本当に思うか?』

 

ナディア『どうかしら。支配は完璧じゃない。現に一度は光と闇に別れることであの人は燭台の支配を逃れたのだから。』

 

ノア『千年積み重ねてきた怨念や無念の思いはあの体を決して放しはしない……。』

 

ナディア『わかっているわ、分の悪い賭けだということはね。』

 

ノア『お前がここで私を抑えているだけでは、グノシスを救うことなど出来ぬぞ。』

 

『ノア様! 加勢します。救世主様の意志を介さない魔女に、我らの力を見せてくれる。』

 

ノア『うむ。邪魔立てするのならば、容赦はしない。永きに渡る生も飽きただろう、ナディアよ。私がお前の時を止めてやろう。』

 

ノア『グラージャの魔導兵どもよ。この女を殺せ。そのための力を与えてやろう。』

 

ナディア『やめなさい、ノア!』

 

ノア『我が悪意を受け取れ、人間どもよ。残酷に、残忍に、あの女の体を引き裂き、殺してやるがいい。』

 

『うぎゃあああああああああああ!!』

 

ノア『我が傀儡となり忠誠を示せ、力を持たぬ者どもよ。与えられた力を絞り尽くし……やがて死ね。』

 

『あ、あああ……殺す……。』

 

ナディア『ノア……!あなたは人を……なんだと思っているの。』

 

ノア『何度も繰り返した問答。お前は昔から変わらぬな、ナディア。愛着を持つ故に、徹することが出来ない。』

 

ノア『私を殺したいほど憎んでいるくせに、情を捨てきれない。』

 

ナディア『……………………。』

 

ノア『その情ゆえに……死ね。お前が執着する人間の手にかかれるのならば本望だろう。』

 

ナディア『情を捨てたら人間ではなくなる。私はあなたのようにはなりたくないわ。』

 

ナディア(加勢には行けそうもないわね。あとはあなた次第よ、神子さん……。)

 

 

 

Quest 17  「黒き怨念の渦へ」

 

ミトラ『ここが、神樹ユグドラシルの内部……。時が止まっているような、不思議な空間……。』

 

ユグドラシル『ミトラさん、お久しぶりです~。神宿りの森へ、お帰りなさい~。』

 

ミトラ『あなたは……?』

 

ユグドラシル『私はこの森の主、ユグドラシルです~。あなたをお待ちしていましたよ~。』

 

ミトラ『私はあなたに会うのは初めてです。お帰りなさいとは、どういう意味ですか?』

 

ユグドラシル『あなたは覚えていないでしょうけど……。ミトラとグノシスは、ここで生まれたんですよ~。』

 

ユグドラシル『千年以上前、燭台の意志を切り離すために、英雄はこの森を訪れました~。』

 

ユグドラシル『愛する故郷を守りたいという意志を汲んで、私は神樹の力で、英雄の魂を分けました~。』

 

ミトラ『ここで、ミトラとグノシスが……。』

 

ユグドラシル『はい~。だからナディアさんは、グノシスさんをもう一度ここに連れてきたんです~。』

 

ユグドラシル『再び、グノシスさんを燭台の意志から解放するために~。』

 

ミトラ『この先に……グノシスが?』

 

ユグドラシル『神樹の内部は、あの幻獣の思念で溢れています~。』

 

ユグドラシル『神樹の力を保つため、私はここを動けません。思念が渦巻くこの世界で、あなたはグノシスさんの魂を探さなければなりません~。』

 

ミトラ『……………………。』

 

ユグドラシル『とても危険な道のりです。あの幻獣に、自ら飲み込まれるようなもの~。』

 

ユグドラシル『襲いかかる思念はあなたの魂を蝕み……。失敗すればあなたの魂も、あの幻獣に取り込まれてしまう。』

 

ユグドラシル『それでも……行きますか~?』

 

ミトラ『あの子と同じ苦しみを味わいます。あの子と同じ痛みを……この身に受けます。』

 

ミトラ『そしてきっと……あの子を取り戻します。』

 

ユグドラシル『わかりました~。……では。』

 

ユグドラシル『神樹の最奥への道を……開きましょう。』

 

ユグドラシル『幾百万の感情の渦に、あの方は飲み込まれています。どうか……救ってあげてください……。』

 

ミトラ『………………はい。』

 

(戦闘)

 

『憎め……憎め……生あるもの全てを……。』

 

『人間の滅びを想像し続けろ。悲鳴と怨磋をその身に受けろ……。』

 

ミトラ(声が……押し寄せてくる。あの幻獣を形作る声の塊が。)

 

ミトラ(これが……燭台の意志なの……?それに、他にも声が……。)

 

『どうか……どうか私の子供を助けてください。』

 

『なぜ救ってくれなかった……。』

 

『信じています、きっと助けてくれると。』

 

『信じていたのに……助けてくれなかった。』

 

『憎い……憎い……憎い……。』

 

ミトラ(英雄が救えなかった命。英雄に寄せる希望の声……。)

 

ミトラ(想いの淀み……。この奔流に飲み込まれそうになって、英雄は魂を2つに分けたのね……。)

 

『頼む、降伏する。降伏するから命だけは……!』

 

『なぜ死ななければならなかったんだ……。』

 

『ぎゃあああああああ!!』

 

ミトラ(どこにいるの……シンシャ。見つからない。ここは声が多すぎる……。)

 

(憎い……憎い……生きている人間が……憎い。)

 

(私は死ななければならなかったのに……なぜ生きている。)

 

(お前も……仲間になれ。我らの仲間に……。)

 

ミトラ(ダメ……飲み込まれる……!!やめて! 私はシンシャを見つけるの……!!)

 

(諦めろ。妹はお前など待ってはいない。)

 

ミトラ(そんなことない、シンシャは私を……。)

 

(同じ気持ちなどではない。お前は双子を犠牲にして自分だけ助かったんだ。)

 

ミトラ(違……!)

 

(お前は裏切り者だ。双子はお前を待ってなどいない。)

 

(双子はお前を憎んでいる。自分をこんな目に遭わせたお前を恨んでいる。)

 

ミトラ(……………………。)

 

(お前のせいだ……お前のせいだ。お前のせいだ、お前のせいだお前のせいだ。)

 

ミトラ(私は……私は……!)

 

(お前が双子に償う方法があるとするなら、ここで我々と同じ存在になることだ。)

 

(そうすれば妹と一緒にいられる。)

 

ミトラ(シンシャと……一緒……。)

 

(我らと同じ存在になれ。妹と一緒に……。永遠にここで生きろ。)

 

ミトラ(シンシャ……ごめんね、私のせいで。私は……あなたに……。)

 

(そうだ、そのまま目を閉じろ。永遠の闇の中で、双子と共に……。)

 

……………………。

 

 

(……………………。)

 

 

ミトラ(この……光は……?)

 

エレオノーラ『気をしっかり持ちなさい、ティアナ。シンシャが待っているわ。』

 

ミトラ『おかあ……様?』

 

エレオノーラ『目を開けて……しっかり前を見なさい。もう転んだくらいで、泣いたらダメよ?』

 

ミトラ『お母様……!』

 

エレオノーラ『あんなに泣き虫だったのにね。よく頑張ってここまで来たわね、ティアナ。こんなにボロボロになって。』

 

エレオノーラ『小さな幸せでいい、と願っていたあなたが、今はグラージャの全てを救いたいと必死に願っている。』

 

ミトラ『それは……お母様とシンシャがいたから。2人の気持ちを無駄にしちゃいけないって思ったから……。』

 

ミトラ『それに……あの子を取り戻すまでは、泣かないって決めたんです。』

 

エレオノーラ『そうね……。もう少しよ、ティアナ。あとちょっとだけ頑張れる?』

 

ミトラ『でも……シンシャが見つからないんです、お母様。私には、あの子がどこにいるのか……。』

 

エレオノーラ『耳を澄ましなさい。あの子の声が聴こえるでしょう?』

 

エレオノーラ『あなたを呼んでいるわ。あなたの名前をずっと……。』

 

エレオノーラ『あなたなら見つけられるはずよ?もう少しだから……がんばりなさい。』

 

ミトラ『はい……お母様。』

 

 

……………………。

 

 

……………………。

 

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『……………………。』

 

ミトラ『シンシャ……見つけた。』

 

グノシス『……………………。』

 

 

 

Quest 18  「光から闇へ紡ぐ言葉」

 

ミトラ『シンシャ。グラージャはもう大丈夫。グノシスに頼らなくてもやっていけるよ。』

 

ミトラ『協力してくれる人だっている。力を持たなくても、グラージャは滅んだりしない。』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『お母様と私たちの愛したあの国はもう大丈夫。だから……あなたがもう苦しむ必要はないの。』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『どうして、シンシャ……。』

 

グノシス『ティアナ……。私はもう、あなたと一緒にいられない。』

 

グノシス『たくさんの命を……傷つけてしまった。私はもう、血にまみれてしまった。』

 

ミトラ『シンシャ……。』

 

グノシス『目を閉じるたびに、声が聞こえるの。悲鳴、命乞いの声、断末魔……。』

 

グノシス『この声は消えない。もう、無理なの……。』

 

ミトラ『違うよ、シンシャ。私を守るために、シンシャはグノシスを受け継いだ。』

 

ミトラ『私が弱いから、あなたに悲しみばかりを背負わせてしまった。これは私の罪なの。だから……。』

 

グノシス『あなただけは守りたかった。それでもあなたをミトラにしてしまった。あなたを苦しめてしまった。』

 

グノシス『ごめんなさい、ティアナ。ごめんなさい……。』

 

ミトラ『違う……違うよ、シンシャ。』

 

グノシス『あなたには……笑っていてほしかったのに。お母様に……あなたを頼まれたのに……。』

 

ミトラ『………………~~!』

 

(イーリス『背中は守ってやる。全力で走って、さっさとバカな妹の頭をひっぱたいてこい!』)

 

(サシャ『聞き分けのない妹には、たまにはガツーンと言ってあげないとね。』)

 

ミトラ『シンシャのバカ!!』

 

グノシス『…………!!』

 

ミトラ『バカ! バカ! 意地っぱり!自分勝手な事ばっかりして!!』

 

ミトラ『あなたが自分を犠牲にして傷ついても、私は全然嬉しくない。そんなんじゃ絶対に笑えないよ!!』

 

グノシス『ティアナ……。』

 

ミトラ『あなたが罪の意識を感じるなら、私も一緒に背負う!あなたが罰を受けるなら、私も一緒に受ける。』

 

ミトラ『私は自分の心に従う。私が感じている痛みは、あなたも一緒だと信じてる。』

 

ミトラ『私が望んでいる願いは、あなたも一緒だと信じてる!!』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『双子だもん。あなたが何を言ったって、本当の気持ちくらいはわかるよ……。』

 

ミトラ『あなただって、私がどんな気持ちでここにいるか、わかるでしょ……?』

 

グノシス『ティアナ……。』

 

ミトラ『うん……。』

 

グノシス『痛いよ……苦しいよ、ティアナ。』

 

ミトラ『うん……。』

 

グノシス『あなたと…………一緒に……。帰りたいよ…………。』

 

ミトラ『うん。うん……!私も同じ気持ちだよ、シンシャ。もうあなたを失ったりしない。』

 

ミトラ『あなたをグノシスから解放する。あなたの中のグノシスが抵抗したってそんなの知らない!』

 

ミトラ『あの日放してしまった手を……。もう二度と放さない!!』

 

(戦闘)

 

ミトラ『シンシャ。お母様に会ったんだよ。あの幻獣の中に、お母様の思念が残っていたんだね。』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『シンシャが飲み込まれずにいたのも、きっと……お母様が護ってくれていたんだね。』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『シンシャ、私ね、頑張ったんだよ。お母様がいなくなって、あなたがいなくなってから。』

 

ミトラ『イーリスにね、あなたに似てきたって言われちゃった。』

 

ミトラ『泣かなくなったからだって。ふふ、そんなに私、泣き虫だったかな?』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『だって……決めたんだもん。あなたを……取り戻すまでは……。絶対に……。』

 

グノシス『……う………………。』

 

ミトラ『絶対に、泣かないって……。』

 

グノシス『ティ…………アナ。』

 

ミトラ『シンシャ!!』

 

 

コツン!

 

 

グノシス『いたっ。』

 

ミトラ『あっ……!』

 

グノシス『……………………。』

 

ミトラ『えへへ……鼻、ぶつけちゃった。』

 

グノシス『ティアナ……。』

 

ミトラ『う……。』

 

ミトラ『うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!』

 

グノシス『ティアナ……。』

 

ミトラ『ああああぁぁ! うわあああああああああん!!』

 

ミトラ『うぅぅ……シンシャ、シンシャあ。うああああああああああん!』

 

グノシス『ティアナ……ごめん、ごめんね。ありがとう……。』

 

ミトラ『うわああああああああああああん!』

 

 

 

Quest 19  「双翼は暁に羽ばたく」

 

ユグドラシル『森の瘴気が……晴れていく。』

 

ユグドラシル『神樹から大きな力が生まれている。2つの翼が……ひとつになった。』

 

ユグドラシル『よかったですね。ミトラさん、グノシスさん……。』

 

 

……………………。

 

 

ナディア『この力は……。』

 

ノア『レギオタズマが消え去った。あの力を、千年の怨念を消し去ったというのか……。』

 

ナディア『消えたのではないわ。ミトラとグノシスとあの幻獣は一つになった。もう二度と離れはしない。』

 

ノア『レギオタズマに飲み込まれずに……。逆に力を吸収したということか。』

 

ノア『森を覆う瘴気すら消し去るほどの力。くく……くくくく。非常に興味深い。』

 

『うっ……ここは……。私は何を……。』

 

ノア『これが、お前の言う人間の可能性か。実に興味をそそられるぞ、ナディア。』

 

ノア『燭台の意志に操られていた人間たちを正気に戻すとはな……。』

 

ナディア『賭けは成功したようね。神子さん……おめでとう。』

 

ノア『私にとっては好ましくない展開のようだ。ミトラとグノシスが完全に力を操る前に、退散しておこう。』

 

ノア『この森を焼き払うだけの戦力を放って、な……。』

 

ナディア『待ちなさい、ノア……。』

 

ノア『やめておけ、ナディア。私を抑え続けるだけでお前の力は限界のはず。』

 

ノア『また会おう、懐かしき同胞よ。お前が何を言おうと、私の意志は変わらぬ。』

 

ノア『人は強くならねばならぬのだ。この大地を……この世界を支配する天上の力に抗うべく、な。』

 

ナディア『エルヴィーや他の同胞は、あなたが変わってしまったと言う。それは事実ではあるけど……少し違う。』

 

ナディア『あなたの志だけは……変わっていない。本当に……哀しいまでに純粋な人。』

 

ノア『お前が信じる人間の可能性とやらで、この世界を救えるものか……。』

 

ノア『足りぬのだ、人の犠牲などでは。幻獣の力ですら……足りぬのだ。』

 

ナディア『ノア……。』

 

 

……………………。

 

 

ミトラ『シンシャ、感じる?森でまだみんなが戦っている。』

 

グノシス『助けないと……だね、ティアナ。』

 

ミトラ『うん……いこう、2人で。森を覆う瘴気を消し去ろう。あなたと私なら……きっと大丈夫。』

 

グノシス『力を感じるの、ティアナ。あの幻獣を形作っていた感情の渦が、一つの形になって私の中にある。』

 

ミトラ『うん、シンシャ。私も同じ力を感じる。』

 

シンシャ『人々を守ろうとした英雄の想い。救いを求める人々の声。ミトラとグノシスの千年の想い。』

 

ティアナ『お母様が私たちを愛してくれた想い。カナンの、イーリスの、ジャンナの、グラージャを想う気持ち。』

 

シンシャ『全ての想いが形になろうとしている。お願い、力を貸してね……?』

 

ティアナ『いこう、シンシャ。私たちに宿る翼よ……!』

 

ティアナ・シンシャ『羽ばたけ!!』

 

(戦闘)

 

ジャンナ『……………………。』

 

イーリス『カナン様、ジャンナ様は……?』

 

カナン『大丈夫、気を失っているだけだ。森の奥から広がったあの光に、浄化されたようだ……。』

 

カナン『もう苦しまなくていい、ジャンナ。我らも、強くならなければな。あの2人のように……。』

 

イーリス『まったく。遅いんだ、あいつらは。長い間ケンカしておいて……。』

 

イーリス『まだまだ世話が焼けそうだな。私が守ってやらなきゃな。』

 

サシャ『イーリスさん、もしかして泣いてます?』

 

イーリス『な、泣くかバカ!!戦いすぎて、眠くなっただけだ!』

 

サシャ『言い訳、苦しすぎますよ♪』

 

サシャ『姉妹ケンカ、終わったんですね。神子さん……もちろん勝ったんですよね。』

 

 

……………………。

 

 

ティアナ『シンシャ、私ね……。この森に来た時から、どこか懐かしく感じていたの。』

 

ティアナ『ミトラとグノシスが生まれた場所だから、なのかな……?』

 

シンシャ『……………………。』

 

ティアナ『シンシャ?』

 

シンシャ『見て……ティアナ。』

 

ティアナ『森がどうかしたの、シンシャ?』

 

シンシャ『神宿りの森の精気が、大地の息吹に合わせて舞い上がっているの。私、この光景を知ってる。』

 

ティアナ『あっ……。』

 

『レスレクティオ……。』

 

シンシャ『2神の復活を願う祭り……。』

 

ティアナ『そっか。この森で生まれたミトラとグノシスが、初めて見た光景だったんだね。』

 

シンシャ『私、この光を見たグノシスが何を願ったか、わかる気がする……。』

 

ティアナ『うん……そうだね、シンシャ。私にもわかるよ……。』

 

 

光の神ミトラ、闇の神グノシス。双子神はかつて、1つの存在だったと言われている。

唯一絶対の存在であった一つの存在が、なぜ分かたれることになったのか。その理由は現代には伝わっていない。

人々の間に伝わるのは、再び1つになった翼の輝きだけである。